スマートフォンおすすめ1:鍋倉夫「路傍のフジイ」/小学館

究極の「普通」に周囲の人間がのめりこんでいく!

会社では目立たず地味で(でも仕事はちゃんとする)一見するとさえない風体の会社員「フジイ」。感情の起伏も少なく、まるでモブキャラな彼の周囲にあらわれる悩みを抱えた人たちが、フジイの「普通」に惹かれていつの間にか悩みが解消されていくというストーリーです。

フジイのようなキャラクターが憧れの対象になるという、これまでにはあまりなかった設定が人気を集め『このマンガがすごい!2025』オトコ編で5位を獲得。

フジイのような生き方なら無理せず、心を無駄に動かさず、この世の中を楽に生きていくことができるかも!?

出版社
小学館

モブキャラに共感し、興味津々になる謎構造

今回のテーマはマンガ縛りということで、「このマンガがすごい!2025」から2作品。まずはオトコ編5位の鍋倉夫「路傍のフジイ」

主人公なのに顔が明らかにモブキャラという手抜きの描かれ方をしている不思議な人物フジイの“周りにいる人たち”の話。というのも、本作は主人公のフジイではなく、彼の周りに登場する人たちの物語が中心の構造になっているのですね。

フジイは主人公なのにモブキャラ気質で、特殊能力があるわけではありません。周りを気にせず、絵を描いたりギターを弾いたり、パズルをやったりと、自分なりに安く楽しく暮らしているだけ。

安く楽しく暮らすマンガだと『大東京ビンボー生活マニュアル』もありますが、こちらは生活そのものを描いたほのぼの系。一方で、本作に出てくる人たちは、だいたい病んでいます。

病んでいると言っても別にヤバイ人たちが登場するわけではなく、現代の社会人であれば誰しもが抱えているようなモヤモヤとした悩みを持っている普通の人たちです。

そんなモヤモヤを抱えながら生きる人たちが各話での主人公になっています。作り的には『笑ゥせぇるすまん』に似ている感じですね。

そうやって登場した一般人が、モブキャラであるが故に周りに振り回されることもなければ、感情の起伏も少ないフジイと交わることで、フジイの“普通”という魅力に惹かれ、憧れにも似た感情を抱いてしまう。

その結果、みんなが悩みやモヤモヤを昇華させるという展開が繰り広げられます。

フジイも傷つくし感情も動く

フジイは人とのいさかいを起こすこともなく、感情的な行動を取ることもありません。だから、フジイの生活だけを見ても何か特別なことが起こるわけでもありません。そこにフジイの周りの人物を描くことでフジイの特異さが際立つわけです。

そんなフジイも、周囲との絡みのなかで感情が揺さぶられる出来事が起きるのですが、フジイは異常行動をとることで自らの感情を制御します。つまり、フジイは感情の動かない冷血な人間ではなく、傷つきもするし感情も動く人間なのですね。

そう考えると、フジイはモブキャラとしての立ち居振る舞いを自らに課すことで自身を変えてしまった、環境順応力が生んだ悲しい産物かもしれません。

ただ、普通の人がやらない負担をして動物を助けたりと、正義や人間らしさを思わせる面もある。読者はそんなフジイの不思議なキャラクターに惹かれるのかもです、モブキャラなのに。

おすすめ度:★★★★

★5:お勧めTOP100レベル/★4:人によって面白く感じなくても、どこが面白いのか説得できる/★3:人によって評価が分かれる/★2:面白くないか失望したか/★1:いまだ現れず……

スマートフォンおすすめ2:南Q太「ボールアンドチェイン」/マガジンハウス

生きる上で受け入れられている常識や普通に悩む人たちへ

自身の性的指向が揺らいだままで結婚を控える「けいと」と、冷えた夫婦関係に悩む「あや」。結婚と離婚という人生の岐路に立たされた2人が交差し、生きる上での「常識」や「普通」、「女性」「妻」といったものと戦っていく。

Web版『GINZA』で2023年PV数1位を獲得し、『このマンガがすごい!2025』オンナ編で3位となった人気作品です。

本来の自分を偽り、世間に合わせながら生きていくことの葛藤が話の主軸であり、大人であれば共感しまくれる作品。

出版社
マガジンハウス

自分を殺して生きる人は共感しやすい作品かも

もう一作品は、南Q太「ボールアンドチェイン」。「このマンガがすごい!2025」のオンナ編3位ということですが、表紙が女性向け漫画っぽくないという理由で選んでみた作品です。

主人公は二人。一人は自分の性的指向を思い通りにしなかったOL「けいと」、もう一人は若いころの自分の性的指向を理解しないまま歳を経てしまった主婦「あや」。その2人を中心にして、それぞれのストーリーが交互に描かれています。

けいとは無理をしてEDの男性と付き合って婚約までしたけど上手くいかず、女性のパートナーを見つけます。一方、あやは、若い頃は中性的な同性と遊ぶのが楽しかったものの、世間体とか親のすすめとか仕事の関係から、迫られた男性と流れに任せて結婚。歳を取って子どもが大きくなってからは夫に浮気されて家庭内離婚状態です。

そんな二人に共通するのが性的指向。ただ、本作品は性的指向を題材にはしているものの、本質的なところは、「本来の自分を偽り、世の中に合わせて生きる葛藤」という多くの人が共感できる内容だったりします。

世の中にいる人の多くは、いろいろな諦めの上に現在を成り立たせているパターンがほとんどです。理想の異性を取られ妥協で結婚した人、理想の職業を諦めて現実的な仕事をしてる人。人それぞれで違うのは大前提ですが、これらもある種の諦めみたいなものですよね。

理想の人生を生きてる人なんて、ほぼいないというリアリティ

僕は1976年生まれなので40代後半です。この歳くらいになると、若いころは「運命の人」とやらが出てきて、思い描いた通りの人生が訪れると思い込んでいた人たちも、40歳を過ぎたくらいから望む・望まざるに関わらず「人生は妥協の選択の積み重ねだよね……」という現実を見ることになります。

大学生や新人社会人の頃にイケていた人たちも、このくらいの年齢になると人生の道筋が変わっていきます。それが氷河期世代であれば尚更で、大企業に就職したけどリストラの憂き目にあったりもするわけです。

んで、この作品を読むと“思い通りの理想の人生を歩んでる人なんて、ほぼいない”という、ある種のリアリティみたいなものを感じてしまう。そういった、年齢を重ねると誰しもが感じるものが見えてくるからこそ、人気になっていると思うのですね。

僕らが若いころに見てきた「イケてないおじさん、おばさん」にも、若いころはあったわけで、その人たちも若いころはイケていたわけです。イケていたってのは、当時の話であって、今は昔。

そして、僕らの世代も若い人たちから見ると「イケてないおじさん、おばさん」になっているんですよね、間違いなく。そんなことをひしひしと感じてしまう作品でした。

おすすめ度:★★★★

★5:お勧めTOP100レベル/★4:人によって面白く感じなくても、どこが面白いのか説得できる/★3:人によって評価が分かれる/★2:面白くないか失望したか/★1:いまだ現れず……

以上、ひろゆきさんに『MONOQLO』が、「このマンガがすごい!2025」にランクインした話題の2作品、鍋倉夫「路傍のフジイ」南Q太「ボールアンドチェイン」をおすすめしてみました。

ひろゆき(西村博之) 氏
実業家
ひろゆき(西村博之) 氏 のコメント

【おいらの結論…】こういうマンガが人気になるくらい、いまの日本は息苦しい状態なんですかねぇ……。

次回も選りすぐりのアイテムやコンテンツを、本音でレビューしてもらいます!

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