ミラーレス時代における一眼レフの価値とは?
ここ数年、レンズ交換式のカメラは一眼レフからミラーレスにトレンドが移行しています。
一眼レフの盟主だったニコンとキヤノンがミラーレスに注力した結果、2019年から20年末までの新製品はミラーレスが32製品に対し、一眼レフはわずか6製品。
そんな状況で、2020年に「一眼レフの未来を創る」と宣言したのがペンタックスでした。そして、宣言後初の新製品となったのが一眼レフの「K-3 MarkⅢ」です。
時代に逆行した一眼レフ PENTAX「K-3 MarkⅢ」
リコーイメージング
PENTAX
K-3 MarkⅢ
実勢価格:24万9800円(ボディ)
サイズ:D73.5×H103.5×W134.5mm
重量:800g
イメージセンサー:2573万画素APS-Cサイズ
画像モニター:約162万ドット
シャッター:1/8000秒〜30秒
PENTAX「K-3 MarkⅢ」は、Kー3シリーズの第3世代で品質を重視したハイエンド機種。一眼レフの新製品というだけでレアなカメラですが、実際はどうなのでしょうか。
ということで、気になる機能や使い勝手などプロとチェックしたPENTAX「K-3 MarkⅢ」の検証レビューをお届けしていきます。
今回は、前回の基本スペックに続いて優秀なポイントをご紹介します。
▼基本スペック編の記事はこちら
【操作性】持った瞬間わかる「手になじむ!」
カメラ本体を保持するのは右手ですが、背面や天面の各種ダイヤルを操作するのもまた右手の役割。つまり、持ちやすく・操作もしやすく・疲れにくい……そういう絶妙なバランスがグリップには求められます。
グリップ設計が悪いと手のひらがボディの角に当たって痛みを覚えたり、グリップと指の間に隙間が空いてしまうものですが、「K-3 MarkⅢ」はそうした違和感がまるでありません。
また、ボタンやダイヤルの感触はかたすぎず緩すぎません。実によくできています。
ポイント1:とにかく持ちやすい
ミラーレスだと持ち運びやすいですが、撮影中は小さすぎてイライラすることも。しかし、「K-3 MarkⅢ」は中指から小指はグリップに、人差し指はシャッターボタン、親指は背面のダイヤルへと自然に導かれます。ジャストフィットとはこのこと!
ポイント2:グリップがいいからこそ手ブレ補正も実用的
ボディ内に手ブレ補正機構を搭載。優れたグリップも手ブレの抑制に貢献しています。上の写真のように、水の流れを写すようなスローシャッターも手持ちで撮影できました。
ポイント3:ボタンやダイヤルに自然と指がかかって集中できる
シャッター速度や絞り値など撮影中最も高頻度で操作する前後のダイヤル。無理なく指が届いて快適です!
【光学ファインダー】自然の光景がそのまま見れる
一眼レフの最重要パーツで、本機最大のウリである光学ファインダー。
実際にチェックしたところ、広がっていたのは歪みのないクリアな視界。眼鏡をかけていても四隅まで見渡せます。ミラーレスのEVFには「撮る前に撮影結果がわかる」というメリットがありますが、「画面越し感覚」も残ります。
一方、光学ファインダーに広がる視界は現実そのもの。レンズを通じて世界と自分の視覚がダイレクトにつながっているような感覚が新鮮でした。
なお、最近のカメラは可動式モニターが主流ですが本機は固定式。ローアングル撮影はいささか不便です。
▼ミラーレスのEVF(EOS R5)
「撮影効率」という意味ではミラーレスが明らかに上。撮影結果はほぼ同じでしたし、暗いところでも見やすいです。シャッターを切る前に写真の色・明るさやボケ具合がわかるのでミスショットも減ります。
▼一眼レフのEV(K-3 MarkⅢ)
こちらがK-3 MarkⅢのファインダーです。撮影するとご覧のとおり実際の光景より暗くなってしまいました。
一眼レフのファインダーがミラーレスより不便なことは否定できません。でも、この写真はミラーレスだったら撮らなかったかもしれません。
ポイント2:“生の光”だからこそのメリットがある
メリット1:露出補正など撮影技術の向上にもつながる
失敗する機会が多いからこそ「このシーンではこのくらい露出補正しなきゃ」という感覚をつかむことができます。
メリット2:被写体をじっくり観察できる
MFではピント位置のわずかなズレを自分の目で判断するため自ずと被写体とじっくり向き合うことになります。
ちなみに、「MF」とはマニュアルフォーカスの略。レンズのピントリングを手動で動かしピントを合わせる撮影方法。1980年代まではMFが主流でした。
メリット3:微妙な光や色の変化をつかんで撮影できる
色の深みや輝きを生の光で確認しながら撮影の方針を立てられるのは一眼レフならではです。
メリット4:流し撮りもしやすい
流し撮りなど被写体の動きに合わせてカメラを動かしながら撮影するには光学ファインダーが適しています。
測距点をみやすく改善して欲しい
ハイエンドの一眼レフ同士で比べてみると、測距点の表示はキヤノンのほうが太くて見やすかったです。
▼キヤノン EOS 7D MarkⅡの測距点の表示
▼K-3 Mark Ⅲの測距点の表示
K-3 Mark Ⅲは表示が細くてわかりにくく、特に夜間や連写中の視認性は期待外れでした。測距点の見づらさはK-3 MarkⅢの欠点のひとつです。
【作画機能】撮影後に色調を自在に調整できる
光学ファインダーというアナログパーツに気合を感じたK-3 MarkⅢですが、撮影後はデジタルのメリットが全開となります。撮影した写真をベースに「カスタムイメージ」で色や明るさを整えて次の撮影に移れるのです。
つまりファインダーで現実を観察→撮影→色調整→再度撮影というプロセスで現実世界の美しさと撮影者の色彩感覚のバランスを探れるんです。
ポイント1:カメラ内に画像編集アプリがある感覚!
晴れていて気持ちのいい空だったのでカスタムイメージ「風景」で撮影してみました。
しかし、あまり爽やかさを感じられません。
撮影後、上の写真のボタンを押すと先ほど撮影した写真を元にカスタムイメージを調整できます。
カスタムイメージと同じような機能は他メーカーにもありますが、それらと比べると調整できる項目が多いのが特徴です。
カスタムイメージと同様にWB(ホワイトバランス)も調整して再度撮影。爽やかな雰囲気を写真にプラスすることができました!
ポイント2:現実の色彩と自分の感覚をなじませられる
この日は文字どおり燃えるような夕日でした。カスタムイメージの「雅」をベースにファインダーで感じた眩さを基準に色を作りこみました。こういう極端な色作りも、お手の物です。
【画質】APS-C機でトップクラス
最新の2570万画素センサーを搭載するうえ、画像処理エンジンを一新しているため期待通りの高画質でした。
まず気になる高感度画質はフルサイズには及ばないものの、ご覧のとおり十分実用的。
細かいノイズは出ていますが’写真の印象を損ねない程度です。
交通標識の細かい文字までしっかり解像しています。
ハイライトにもノイズは見られずクリアな描写。
写真家の園部さんによると、RAW記録時は「太陽などを逆光で写した際や明暗差の激しい被写体間の境目の自然な調整は群を抜いている部分がある」「シャープネスをしっかり調整するとAPSーCセンサー機としてトップレベルの仕上がり」とのことで潜在能力は高そうです。
ポイント:ISO3200ではノイズレス!
ペンタックス機伝統の機能がこのボタン。JPEG撮影時でもこのボタンを押してから撮影すると、1枚だけRAWで記録できます。レタッチする必要があるシーンで大変重宝する機能です。
【オートフォーカス】従来機からはまさに「著しい改善」!
ペンタックスがこれまでニコンやキヤノンに大きく遅れをとっていたのがオートフォーカスです。風景を撮るにはいいけれどスポーツや動物撮影はちょっと……というのがペンタックス機の定評でした。
ところが、K-3 MarkⅢでは連写性能が前モデルの8.3コマ/秒から12コマ/秒に向上し、測距点(AFポイント)も27点から101点へとスペックが大きく改善しています。実際に撮影してみても確かな手応えがありました。
K-3 MarkⅢで新設されたAFレバー。測距点の場所を上下左右に自在に動かすことができ、とても便利です。
連写性能やAFの精度はニコン・キヤノンがまだリード
連写の快適さは一瞬ファインダー像が消える「ブラックアウト」の短さがポイントですが、ペンタックスよりキヤノンのほうが短く、撮影しやすいです。
先に指摘した測距点の見やすさに加え、連写中のファインダーの見やすさもキヤノンやニコンのほうがリードしています。また、両メーカーはAF精度の高いクロスセンサーを使う測距点が豊富。
ペンタックス、キヤノン、ニコン3機種それぞれのAFポイントと連写速度は以下のとおりです。
【2021年発売】ペンタックス「K-3 MarkⅢ」
AFポイント:101点(クロス25点)
連写速度:約12コマ/秒
ペンタックス「K-3 MarkⅢ」は、バッファ不足で連写速度を維持できません。
【2014年発売】キヤノン「EOS 7D MarkⅡ」
AFポイント:65点(クロス65点)
連写速度:約10コマ/秒
キヤノン「EOS 7D MarkⅡ」は、全点クロスセンサーで被写体を逃しません。
【2016年発売】ニコン「D500」
AFポイント:153点(クロス99点)
連写速度:約10コマ/秒
ニコン「D500」は、AFシステムは一眼レフとして最強クラスです。
【まとめ】「K-3 MarkⅢ」は他人とは違う楽しみかたができる趣味カメラ
以上、PENTAX「K-3 MarkⅢ」の特徴やおすすめポイントの紹介でした。
さいごに、よかった点と残念だった点をまとめてみました。
【評価】A
▼よかったポイント
・極めて高品質なボディ
・広く見やすいファインダー
・最高のグリップ
・豊富な画像調整機能
・顕著に改善されたAF
▼残念ポイント
・旧モデルからGPSを省略
・測距点がみづらい
・連続連写枚数が少ない
ペンタックスにはフルサイズ一眼レフの「K-1」もありますが925gと重めです。それに比べて「K-3 MarkⅢ」は100g以上軽く、また横幅や高さはキヤノンやニコンのライバル機より小さく仕上がっており、ハイエンド一眼レフとしては十分コンパクト。
本機を検証していた編集部員は、普段フルサイズのミラーレスを使っていますが、このくらいがちょうどいいとさえ感じたとのことです。
また、「K-3 MarkⅢ」にはミラーレスにはない本物の光や色を見つめられるという価値があります。
一眼レフならではの撮影プロセスを快適に楽しめて、多数派とは違った写真やカメラとの接し方ができる、これは趣味の道具としては大きな強みです。
気になった人は、ぜひチェックしてみてくださいね。
『家電批評』7月号
晋遊舎
『家電批評』
2021年7月号
実勢価格:700円
この記事の詳細は、『家電批評』7月号に掲載しています。気になる人はご覧になってみてください。