「イヤースピーカー」という名のイヤホンではないイヤホン
「INAIR(インエアー)M360」は、イヤホンサイズのスピーカーというコンセプトの製品です。スピーカーを鳴らしたときに得られる広がりのある音楽体験を、最小サイズで実現するというもの。イヤホン・ヘッドホンの専門店「e☆イヤホン」での試聴会や、先日のポタフェス(イヤホン・ヘッドホンの展示イベント)でも試聴スペースが設けられ、話題となっていました。
INAIR
INAIR M360
実勢価格:1万1800円
出力音圧レベル:92dB±3dB(at 1KHz,1mW)
周波数特性:10-20kHz
入力:3.5mm4極 / ステレオ ミニ
プラグ形状:L型 / 金メッキプラグ
※「e☆イヤホン」で購入できます
デザインは一般的なイヤホンと大きくは変わりません。耳に入るスポンジ部分がやや大きくは見えますが、全体的には小ぶりなサイズ感です。
本体には音楽アプリの操作をするリモコンが付いています。
「耳に入れるスピーカー」ってどういうこと?
支援を集めた「GREENFUNDING」の商品ページでは、「音質に妥協せず、最高の着け心地を追求した」とあります。一般的な耳に押し込むスタイルのカナル式イヤホンと比べ、INAIRは音が放射状に広がる構造に設計しているとのことです。
このように、イヤーピースの中身も普通のイヤホンとは異なっています。この構造が、快適な着け心地と、音に包まれるような感覚を両立させているとのことでしたが、実際にはどうでしょうか。ここからは試聴テストの結果をご紹介します。
ファーストインプレッションは「とにかく低音が出ない」
早速、肝心の音質をチェックしていきたいと思います。テストはサンロクマルでも何度もオーディオ機器の試聴評価をしているゴン川野氏と編集部による共同で行いました。
オーディオライター
ゴン川野氏
自作からハイエンドまで守備範囲は広く、平面型のヘッドホンとハイブリッド型のイヤホンを愛用中。試聴に利用したプレイヤーはAstell&Kernの「A&norma SR15」と、「iPhone SE」です。
ゴン川野 最初に聞いた印象では、とにかく中低音が出ていません。また、能率が悪く、音量が上がりにくい印象です。「高解像度」のベース音ということでしたが、低域が超タイトなんで、確かに膨らんだりこもったりはしていません。ただ、絶対的な量感不足は否めず、解像度が良い訳ではないと感じます。
このように、ファーストインプレッションはかなり辛めの印象であり、それは編集部での試聴でも同意見でした。また、「音の広がり」という部分を強く実感することもできませんでした。
ボリュームについても、例えばゴン氏使用の「SR15」の場合、通常のカナル型イヤホンではボリューム数値「80」もあれば十分な音量ですが、INAIRで聴感上、十分だと感じるボリュームは「120」という数値でした。これは正確な計測ではないので、あくまで参考値として考えてほしいのですが、明らかに差は出ます。
実は装着方法にコツがあり?しばらくアレコレ試してみると…
正直、最初の試聴ではイマイチ良さを実感できません。そこで、色々と調べていくうちに、装着方法にもコツがあるとのことがわかりました。
耳の穴に向けて真っ直ぐに差し込む方法です。確かに着け心地は軽やかで、装着でのストレスはありません。すこし安定感に欠けるような印象もありましたが、そのあたりは個人差もあるところでしょう。
メーカーが解説している装着方法では、本体が耳の中に収まるような形になります。このフォームで実際に試聴をしてみると…。
ゴン川野 推奨の装着方法だと確かにバランスは良くなります。ただ、それでも中低域の物足りなさは感じますね。例えば、少し製品ジャンルは変わりますが、同じように押し込まないことをコンセプトにしているソニーの「STH40D」と比べてもバランス感は劣ります。
うーん、確かに推奨の方が音は良くなるようですが、それでも「高音質」と感じるレベルではありませんでした。
編集部テストでは「シュアがけ」でさらに音質は改善しました
装着方法で音質がかなり変わることがわかったので、さらに他の方法も試してみました。耳の形の個人差にもよると思いますが、編集部が最も良い音だと感じたのは「シュアがけ」です。
シュアがけにすることで、よりしっかりと耳の中にスピーカー部分が食い込み、低音がやや出てくるようになりました。それでも迫力のある音とは言えませんが、「スピーカーでBGMを聴くような」というコンセプトなら当てはまるかもしれません。
ただ、当然ながらより装着感が高まるため、もう一つのウリである「軽やかな着け心地」は少し損なわれてしまいます。
着け心地は確かに良い。でも…音質ににはやや疑問が残ります
ここまで試聴してみての結論として、明らかにオーディオ通には向いていないと言えます。スペックを見ても、そもそもターゲットにしていないとも言えるでしょう。
約1万円という価格帯は、最近のイヤホンではかなりレベルが上がってきているところであり、音楽を楽しむという意味で言えばもっと良い製品があります。低域ばかりに言及してしまいましたが、高域は硬めの音質で、女性ボーカルには向かないなど、万能とは言えません(もちろんクッキリとして音が好みであれば別ですが)。
それでは、もっと一般的な、それこそ「音楽をBGMとして聴きたい」というような人にはどうでしょうか。確かに開放感はあり、今までのイヤホンになかった感覚はあります。
音楽を再生しながらでも会話ができるくらいですし、それでいて思ったよりも音漏れはありません。ハイレゾのような情報量の多い音源には向きませんが、ストリーミング音楽などをBGM的に聞くならアリでしょう。
ただし、やはり装着方法などに関しても、扱いやすくはないため「ベスポジさえ見つかれば」というのが、今回のテストでの評価となります。
このレビューを見て、メーカーの方も購入したユーザーの方も納得がいかないかもしれません(自腹で買った私もそうです)。そこで、再度データ計測も含めた詳細な調査を行うことにします。そして、その結果がまとまり次第、最終的なレポートを掲載することをお約束します。