テストのプロとシロモノのプロに大型白物家電テストの真髄を聞く
家電批評では自腹で購入してテストすることが多いため、値段の高い大型家電のテストには費用がかなりかかります。そのために掲載を断念せざるをえない製品もあり、なかなか決定打がないのが現状。
そこで、今回は月刊誌で15年以上製品やサービスのテストに奔走した、まさにプロレビュアーであるテストのセンパイ・北村森氏とインテリア&家電コーディネーターであるシロモノのセンパイ・戸井田園子氏を迎え、“大型白物家電どうやってテストしたらよいのか会議”を開催しました。
左が商品ジャーナリストの北村森氏、中央がインテリア&家電コーディネーター戸井田園子氏。
マンションに1カ月こもり洗濯機を検証し続けるこれぞまさにプロ根性
15年以上テストを行ってきたさすがはベテランの北村氏。そのぶっ飛んだテストエピソードには何度も舌を巻いてしまいました。たとえば、大型白物家電である洗濯機のテストでのこと。
編集部 東 (以下、東):大型家電の並列検証を行うとなると購入するのには費用がかかりすぎてなかなか踏ん切りがつかず……。北村さんの編集者時代は、大型白物家電をどうやってテストしていたんですか?
北村森氏(以下、北村氏):私が製品テストをやっていた頃は、普通にメーカーから借りて検証をしていましたよ。もちろん、時間もお金もかかりましたが、そんなのは当たり前。時間とお金、人と知恵をふんだんに使うことができるのが我々編集者のメリットなんですから。惜しんではいけません。読者から「何バカなことやってるんだ」と呆れられるくらいでないと。
東:なるほど。当時はどんなテストを?
北村氏:例えば洗濯機。当時はマンスリーマンションの部屋を借りて、そこに洗濯機を1台ずつ設置して、ひたすらコツコツ製品検証をしていましたよ。最低でも1カ月はこもっていたかな。
設置を伴うことが多い大型家電はなかなか撮影スタジオでセットを組んで、とはいかないので、思い切ってまっさらな部屋一室を借り、そこに家電を設置して検証を行うこともありますが……。テストするのに1カ月マンスリーマンションにこもりっきりとは、まったくレベルが違います。
※写真はイメージ
大型家電の検証は、数ヶ月続けることに意味があります。
北村氏:白物家電のテストではイコールコンディション(条件を整えること)が重要なんです。
センパイの口から飛び出した、家電のテストで重要といわれる「イコールコンディション」とは……。テストを行う環境や条件を整えること。
たとえば、空調家電のテストの場合、検証機関などの施設を借りて温度や湿度を一定にしてテストします。そうすることで、数値などの客観的なデータもとれるのです。
空調家電のテストでは、温度・湿度を一定にします。
掃除機テストではホコリや砂、時には擬似花粉なども用いて、重さを測り、ふるいで満遍なく散布。
イヤホンの持つ「周波数帯」データを客観的に得るために、ヒトの頭を模したダミーヘッドで検証。
大型白物家電のテストでは、さまざまなイコールコンディションをつくらなければ検証がはじまりません。そのためにはマンスリーマンションに1カ月こもりっきりになることもやぶさかではない、というのがテストのセンパイの真髄。この教え、しかと受け取りました。
某メーカーの洗剤工場の隅っこで地道に洗濯機の検証を行った過去も
テストのセンパイ・北村氏にはマンスリーマンション1カ月引きこもり検証以外に驚かされた話も。それは、同じく洗濯機検証でのこと。某メーカーの洗剤工場に頼み込んでスペースを間借りして検証を行った、というからスゴすぎます。
なかなかのガッツがないと、こんなところで検証はできません。
たしかに、工場にはたくさんの洗濯機が置かれていて、テスト環境では申し分なさそうです。ちなみに家電批評が打診したところ、「そのような貸し出しはできない」と断られてしまいました……。
製品やジャンルに求められる機能を自分で確かめることがテストで大事
ストイックに検証することはもとより、テストをするにあたっての基本の心得もセンパイに教えていただきました。
北村氏:製品テストで最も大事なのは、自分の中で「旗」を掲げてテストをすること。その製品、そのジャンルで最も求められている機能はどんなことなのか。これを導き出すのに、とにかく頭を使いましたね。この「旗」を軸にした検証項目を作成した段階で、もうテストの6割くらいは終わってるんです。
東:ただ漫然と並列テストするだけではダメだと。
北村氏:当時のドラム式洗濯乾燥機は憧れの家電としてようやく普及しつつあった一方、とても高額化していました。技術的にも過渡期でしたが、エコをウリにし始める機種も出てきていたので、「エコと仕上がりを両立させるドラム式」はどの製品なのかを検証しました。水道代も流水計を使って計算していましたよ。
東:流水計は家電批評では使ったことないです! ドラム式はエコと仕上がりを両立すべきということが、その時掲げた旗だったんですね。
テストを行う際はただ漫然と並列テストするのはなく、その製品がそのジャンルでどういったことが求められているのかを考えること。検証項目を考えたら、実際に自分で旗揚げしたことをテストで確認するのが本当のテストだとセンパイは語ってくれました。
テストで追求した事実はきちんとメーカーにも提示することが重要
これまでガチのテストを多数行ってきた北村氏。その経験が並々ならぬこだわりを築き上げたように感じます。そんなセンパイがこれまでテストをし続けてきた理由とは?
北村氏:製品テストをする理由はふたつあって、ひとつは新しく搭載された機能やウリに対して「そうじゃないでしょ!」とツッコミを入れるため。もうひとつはメーカーが「この製品はこうあるべき」と掲げる旗が本当に正しいのかを確かめるため。いくら電気代や水道代が安く済むからって、乾燥機にかけたシャツがしわくちゃだったら意味ないですよね。メーカーがなんと言おうが、「その商品がどうあるべきなのか」を追求し、テストするんです。そこにとことんこだわってやっていたので、メーカーからも理解を得ることができていたんだと思います。
しかし、メーカーから理解を得られたとしても、大型家電の貸出を受けるにいくつかの関門があるのも現実です。そのひとつが送料。いずれも通常の宅配便料金では対象外となることが多く、専用便での配送が必須。その結果、送料が10万円を超えることもあり、メーカー側もそれなりの覚悟が必要なのだそうです。
メーカーいわく、遠方の倉庫からだと、配送費用もバカにならないとのこと。
消費者だけを向いてテストするのではなく、あくまで自分たちでとことん考え抜いた「旗」を掲げることによって、メーカーにもその商品のあり方を提示することが重要だと教わりました。大型白物家電はもちろん、これはすべての商品テストに当てはまることといえそうです。
メーカーもバイヤーも一読者みんな正しい評価を欲しがっている
商品テストは当然自分たちが商品をジャッジしているわけですが、一方でテストした記事を読む人も数多く存在します。それはもちろん、一般の消費者だけではありません。
北村氏:商品テストの記事を書く時は、「この記事もまた、周りの読者に評価をされている」ということを考えなければいけません。当然メーカーも「読者」であり、バイヤーやその商品の開発に携わった何百という人も同じです。
戸井田園子氏(以下、戸井田氏):メーカーさんに取材に行く時も、家電批評の話題になる時ありますよ。結構みんな読んでるみたい。結局、メーカーも正しい評価を欲しがっているんですよね。
東:そう言われるとさらに気が引き締まります。家電批評なりの旗を掲げて、もっとテストを追求していかないと。
戸井田氏:今でこそみんなそれぞれフラットな検証ができていると思うけど、昔は家電批評も結構尖っていたから(笑)
東:ちょっと過激な書き方をしていたこともあったかもしれません(汗)。
いいタイミングで家電批評の話が出てきましたので、ここはひとつ、家電批評・大型白物家電のテストの歩みを振り返ってみましょう。
まずは冷蔵庫。サイズに対する収納力や機能の良さでベストバイとしていた三菱の当時のベストバイ製品をメーカーから借りることに成功。会社に搬入するだけでも一苦労で、梱包を解くのも、返却時にし直すのも一苦労で汗だくになって検証しました。
ベストバイの三菱機で収納術の検証。中身まで作り込んだ撮り下ろし写真です。
次は設置に難儀したエアコン。こちらもひとまずベストと評された製品のモック(模型品)をメーカーから借り、吊るしたり床に置いて傾けて撮ったり、さまざまな方法で使用イメージカットを撮影しました。
重そうですがモックなので意外と軽かったのですが、モックの撮影が精一杯でした。
続いては洗濯機。2017年、家電批評でおそらく初めてとなる洗濯機の自腹購入検証を敢行。埼玉のアパートでひたすら洗濯機を回し続ける毎日で、真夏にもかかわらずエアコンが壊れるハプニングで乾燥が暴走するなど、アクシデントにも見舞われました。
昨年は約40万円の購入費と莫大な研究経費を投入!
突き詰めたテストの結果は淡々とマイナス評価の記事を書くことも厭わない
テストした記事を読むのは、なにも読者だけではなく、メーカーもバイヤーも同じ。この意識があるからこそ、編集者として求められることがあるとセンパイは言います。
北村氏:もうひとつ、マイナス評価の記事を書く技術というのも我々には求められます。それこそ、何百人という人が関わった製品を批評するわけですから。突き詰めたテストとその結果をもとに、淡々と事実を書くべきです。そこに感情が入ってしまうと、一気にバランスが崩れてしまいます。私の場合は、表現に悩んだ時こそ平易な文章を書くことを心がけました。また、見出しから本文、キャプションに至るまで、全て同じ文字数で統一していましたね。
東:文字数までに統一するとは徹底していますね。
北村氏:それすらも私の旗だったわけです。そして、結論をあやふやにしない。「自分の一番大事な人にこの商品を勧められるか?」「言うなれば、この商品はどんな商品なのか」がきっちり明示されていないといけません。
東:なるほど……。ひとつひとつのお話が胸に刺さります。
自分の一番大事な人にこの商品を勧められるか…。ここまで考えてテストを行うとは、やはり恐れ入ります。
有効なお金と時間で家電批評らしくこれが大型白物家電テストの結論!
さて、2人のセンパイを迎えた“大型白物家電 どうやってテストしたらよいのか会議”。悩みのタネである大型白物家電のテストについて、答えは出たのでしょうか?
北村氏:大型白物家電というよりは、商品テストの心構えですけどね。大型家電は、やっぱりもう少しお金と時間と人を使って、地道にテストするしかないのでは?
戸井田氏:今はまだメーカーさんが昔の家電批評のイメージをひきずっているかもしれないけれど、これからも家電批評らしく、旗を掲げてテストし続けていけば、今まで貸してくれなかったメーカーも「ぜひうちの商品も使ってみてください」ってなるかもしれないし。あとは編集部のみなさん次第! ガンバレー!
東:そうですよね。読者だけでなく、メーカーにも誠実な、家電批評なりの旗をしっかり掲げてテストをしていけるよう、まだまだ精進していきます!
「何バカなことやってんの? と思われたら勝ち」という北村氏の考え方や、「メーカーも正しい評価を欲しがっている」という戸井田氏のアドバイスに、テストする本当の意味がわかった有意義な会議でした。