都会でも天体望遠鏡で月や惑星が観測できる
子どもの頃に「欲しかったけれど買ってもらえなかった」ものに天体望遠鏡があるのではないでしょうか。宇宙への憧れは、大人になっても変わらないものですよね。
実は都市部や市街地でも、天体望遠鏡を使えば金星の満ち欠けや土星の輪なども観測できるんです。
天体望遠鏡は高価なものから安いものまで価格帯にかなりの幅がありますが、天体写真家によると、入門クラスの天体望遠鏡は5万前後が妥当とのこと。とはいえ、いきなりこの価格帯だと手を出しにくいと思う人も多いはず。
そこで気になるのが、Amazonや楽天などのネット通販で見かける2万円未満の安い天体望遠鏡です。
注目度の高い天文現象だと、いろいろなところでライブ配信もされますし、コロナ禍もあってPCを通した電子観望も普及していますが、なはり自分の目でじかにレンズを通して見ると感動は違います。
ということで本音の家電ガイド『家電批評』では2万円未満の望遠鏡5製品を比較。実測を含め、さまざまな角度からチェックし、天体望遠鏡としてのクオリティを徹底検証。初心者向けのおすすめを探しました。
おすすめの倍率や口径は? 月や惑星はどう見える
天体望遠鏡の比較結果をお伝えする前に、望遠鏡の基本として、レンズの倍率ごとの天体の見え方の特徴をおさえておきましょう。
※各画像は、それぞれの天体のイメージです。本記事で紹介する天体望遠鏡で、そのように見えるわけではありません。
月
口径:〜60mm
・低倍率(30〜70倍)……月面全体が見える。
・中倍率(70〜140倍)……クレーターや海の中のシワ模様が見える。
・高倍率(140倍以上)……シーイング(※1)が良い時のみ使用。
※1:天体を観たときに発生する、星像の位置の揺らぎの程度。シーイングが良いとは揺らぎが少ない状態。
口径:80mm
・低倍率(30〜70倍)……月面全体がはっきり見える。
・中倍率(70〜140倍)……クレーターの状態や山ひだがよく見える。
・高倍率(140倍以上)……月面の半分が視野いっぱいになる。
口径:100mm
・低倍率(30〜70倍)……月面全体がはっきり見える。
・中倍率(70〜140倍)……小クレーターが観察できる。
・高倍率(140倍以上)……裂け目や山の詳細がわかる。
口径:150mm
・低倍率(30〜70倍)……月面全体がはっきり見える。
・中倍率(70〜140倍)……小クレーターの詳細が観察できる。
・高倍率(140倍以上)……小さな起伏や裂け目の詳細がわかる。
土星
口径:〜60mm
・低倍率(30〜70倍)……全体の姿が見える。
・中倍率(70〜140倍)……環、衛星タイタンが見やすくなる。
・高倍率(140倍以上)……本体の縞模様が見えたりする。
口径:80mm
・低倍率(30〜70倍)……望遠鏡の導入に使う。
・中倍率(70〜140倍)……カッシーニの間隙(※2)が見える。
・高倍率(140倍以上)……スケッチしやすくなる
※2:環の外側と内側の間にある隙間。
口径:100mm
・低倍率(30〜70倍)……望遠鏡の導入に使う。
・中倍率(70〜140倍)……衛星が2個見える。
・高倍率(140倍以上)……シーイングの良い時だけ使用する。
口径:150mm
・低倍率(30〜70倍)……望遠鏡の導入に使う。
・中倍率(70〜140倍)……衛星が5個見える。
・高倍率(140倍以上)……シーイングの良い時だけ使用する。
木星
口径:〜60mm
・低倍率(30〜70倍)……4つの衛星の位置がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……縞模様が1~2本見える。
・高倍率(140倍以上)……シーイングの良い時だけ使用する。
口径:80mm
・低倍率(30〜70倍)……4つの衛星の位置がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……複数本の縞や大赤斑(※3)の存在がわかる
・高倍率(140倍以上)……スケッチするなら150倍以上。
※3:木星にある円形の赤い模様。地球の台風のような嵐が見えている。
口径:100mm
・低倍率(30〜70倍)……4つの衛星の位置がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……縞の構造の細部がわかる。
・高倍率(140倍以上)……スケッチするなら200倍以上で。
口径:150mm
・低倍率(30〜70倍)……明るすぎて不適。
・中倍率(70〜140倍)……縞の構造の細部がわかる。
・高倍率(140倍以上)……縞の詳細な構造、変化が確認できる。
金星
口径:〜60mm
・低倍率(30〜70倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・高倍率(140倍以上)……シーイングの良い時に見やすい。
口径:80mm
・低倍率(30〜70倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・高倍率(140倍以上)……高度が高い時に見やすい。
口径:100mm
・低倍率(30〜70倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……シーイングの悪い時に使用。
・高倍率(140倍以上)……高度が高い時に見やすい。
口径:150mm
・低倍率(30〜70倍)……満ち欠けや大きさの変化がわかる。
・中倍率(70〜140倍)……シーイングの悪い時に使用。
・高倍率(140倍以上)……高度が高い時に見やすい。
なお、口径が大きいほうが多くの光を集められるため明るく、星が見えやすくなります。天体望遠鏡は、倍率だけでなく対物レンズの口径によっても、見え方が変わることも覚えておくといいでしょう。
また、「倍率=対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離」なので、接眼レンズ(アイピース)を変更することで、後からでも倍率を変更することは可能です。
たとえば、対物レンズ800mmの望遠鏡に20mmの接眼レンズを使うと倍率は40倍に。10mmのレンズを使うと80倍になります。しかし、倍率をあげるほど天体は暗く、見にくくなってしまいます。適正な倍率は、口径の大きさ(ミリ数)を約2倍した数値までです。
天体望遠鏡の比較方法は?
さて、今回のテストではAmazonや楽天で購入できる2万円以下の天体望遠鏡5製品をピックアアップ。天体写真家と一緒に、以下の5項目をチェックしました。
検証1:見えやすさ
昼間は遠くの建物の輪郭やコントラストを、夜間は光(天体)がシャープに見えるかどうかが基準となります。なお、今回は天候の兼ね合いにより光学系の評価は街灯を利用して行いました。また、像質の評価は、低倍率の接眼レンズと付属の天頂プリズムや正立プリズムを併用したものです
検証2:架台の強さ
三脚にがたつきがあったり、鏡筒を固定する部分がぐらついていたりすると、見えやすさに影響します。
検証3:天体導入のしやすさ
天体導入とは、観察したい天体を視界(レンズ内)にとらえること。拡大して見ている分、少しのズレでも大きなズレになってしまうので、視界を微調整できる微動装置があると導入しやすくなります。
検証4:使いやすさ
持ち運びしやすいかどうか、セッティングは簡単にできるのか、観測中の使い心地はどうかも大事な要素です。
検証5:付属品満足度
アイピース(接眼レンズ)は何種類入っているか、取扱説明書はあるか、星座ガイドなどの小冊子がついているかも、初心者には気になるところです。
それでは、2万円以下の天体望遠鏡の検証結果をおすすめ順に発表します。
2万円以下の望遠鏡のおすすめは?
スコープテック「ラプトル60 天体望遠鏡セット」
スコープテック
ラプトル60
天体望遠鏡セット
実勢価格:2万1800円
対物レンズ口径:60mm
対物レンズの焦点距離:700mm
接眼レンズの焦点距離:20mm/8mm
倍率:35倍/87.5倍
タイプ:屈折式、経緯台式
重量:約2.55kg
▼検証結果
- 見えやすさ(昼) :A
- 見えやすさ(夜) :A
- 架台の強さ :A
- 天体導入のしやすさ:C
- 使いやすさ :B
- 付属品満足度 :B+
- 総合評価 :A
栄えあるベストバイに輝いたのは、スコープテック「ラプトル60 天体望遠鏡セット」でした。
注目は、天体望遠鏡にとって最も大事な要素とも言える「見えやすさ」が高評価だったことです。昼間と夜間に観測テストを行ったところ、いずれもシャープでくっきりと対象物が見えました。
そして架台の強さにおいても高評価を獲得。同製品は三脚のふらつきもなく、かなりしっかりした印象を受けました。見えやすさと合わせ、ここでの高評価がベストバイの決め手となりました。
天体写真家によると、「対象物の見え方は左右反転する鏡像ですが昼も夜もキレイに見えるのは高評価。ただし、微動装置がないので天体導入に慣れが必要なため、初心者にはやや難しい部分がある。」とのことです。
像質は5つの機種の中で一番キレイ
天体望遠鏡の鏡像は上下左右反転しますが(マイナーな「ガリレオ式」はのぞく)、ラプトル60は天頂ミラー付きなので、左右反転で観察ができます。また、昼の画像、夜の画像ともにシャープで、光がぼやけて見えることもありませんでした。明るいところと暗いところのコントラストもはっきりしていて、5つの機種の中では最もキレイに見えました。
架台がしっかりしている
架台もしっかりしていて、観測時のがたつきは感じられません。三脚もアルミ素材を使用しているため軽いながらも頑丈さは十分です。
各パーツのポイント
別名「のぞき穴ファインダー」と呼ばれる簡易ファインダー。穴の中心に見たいものを収めるだけのシンプルさ。見やすさも十分で、まあまあの使いやすさでした。
アクセサリートレイがあるので、手の届くところに替えの接眼レンズやスマホなどを置けるなど非常に便利です。
微動装置はない
細かい視野調整を行う微動装置がないために、初心者は小さな対象物をとらえるのは少し難しいかも。昼間のうちに対象物を捉えることに慣れておくことはもちろん、天体観測の経験も必要となり、この点は惜しいところでした。
星空観察ガイドが付属されている
説明書のほかに、オールカラー全50ページの「星空観察ガイド」が付属しています。天体観測の基本がよくわかります。
サイトロンジャパン「天体望遠鏡 MAKSY GO 60」
サイトロンジャパン
天体望遠鏡
MAKSY GO 60
実勢価格:1万8673円
対物レンズ口径:60mm
対物レンズの焦点距離:750mm
接眼レンズの焦点距離:20mm/10mm
倍率:37.5倍/75倍
タイプ:反射屈折式、経緯台式
重量:約1.25kg
▼検証結果
- 見えやすさ(昼) :A
- 見えやすさ(夜) :A
- 架台の強さ :A〜D※
- 天体導入のしやすさ:C
- 使いやすさ :A
- 付属品満足度 :A
- 総合評価 :A
※三脚がないので架台の強さはどこに置くかで変化します。
総合2位の評価を獲得したサイトロンジャパン「天体望遠鏡 MAKSY GO 60」は、三脚を使用しない独特の形が特徴です。天体写真家によれば、「持ち運びに適したサイズで、見えやすさも良いですが、台が必要になるため使用場所が限られます」とのこと。
見えやすさのテストでは2位の評価に。しっかりとしたボディで、子どもが扱っても壊れにくい印象を受けました。シンプルな構造で回転や上下動がしやすいのも魅力的。それにコンパクトなので、キャンプなどで天体観測を楽しむなどの用途にはうってつけです。
ただし、天体写真家が指摘したようにテーブルや台の上に置いて使用するため、セッティングがかなり限定されます。微動装置もなく、天体導入が簡単ではないことがやや評価を落としてしまいました。
のぞいていて疲れない
観測テストでは、見えやすさで1位の製品に次ぐ評価を獲得。1位のラプトル60に比べると、シャープさはやや劣りますが、それでもかなり良い部類に入ります。
各パーツのポイント
鏡筒部分がパカッと開くので、望遠鏡の仕組みが良くわかります。子どもの教材にももってこいです。
台が自由に回転します。回転はスムーズでしっかり止まります。
ミザール「天体望遠鏡 TL-750」
ミザール
天体望遠鏡 TL-750
実勢価格:1万4359円
対物レンズ口径:70mm
対物レンズの焦点距離:500mm
接眼レンズの焦点距離:20mm/12mm/4mm
倍率:25倍/42倍/125倍
タイプ:屈折式、経緯台式
重量:約2.55kg
▼検証結果
- 見えやすさ(昼) :A
- 見えやすさ(夜) :B
- 架台の強さ :B
- 天体導入のしやすさ:A
- 使いやすさ :B−
- 付属品満足度 :A
- 総合評価 :B+
3位はミザール「天体望遠鏡TL-750」。接眼レンズが一体となった回転盤を回すだけで倍率が変えられ、天体写真家も「回転させるだけで倍率を変えられるのは初心者には使いやすい」と評価していました。
微動装置もスムーズに動き優秀。ただ、3種類の接眼レンズは固定されているため別のものに交換できません。拡張性という点では一歩譲りますが、シンプルで使いやすい天体望遠鏡です。
レンズによる色収差が見られる
かつてのレンズと比べると、かなりマシにはなっていますが、レンズの色収差によって夜間の光が色づいて見えてしまうことが、やや評価を落とす結果となりました。
各パーツのポイント
微動装置はなめらかで使いやすく、初心者でも天体導入が比較的簡単にスムーズに行えます。
倍率の変更は、ターレット接眼部に固定された3種の接眼レンズを回転させるだけで使いやすいです。
4位:ビクセン「天体望遠鏡 スペースアイ700」
ビクセン
天体望遠鏡 スペースアイ700
実勢価格:2万204円
対物レンズ口径:70mm
対物レンズの焦点距離:700mm
接眼レンズの焦点距離:20mm/6mm
倍率:35倍/117倍
タイプ:屈折式、経緯台式/簡易赤道儀
重量:約4.1kg
▼検証結果
- 見えやすさ(昼) :B
- 見えやすさ(夜) :B
- 架台の強さ :B
- 天体導入のしやすさ:B
- 使いやすさ :B
- 付属品満足度 :A
- 総合評価 :B
4位は有名メーカー製品のビクセン「天体望遠鏡 スペースアイ700」。意外にも、見えやすさでB評価という結果に。天体写真家は「ゴーストが出たのは残念。微動装置も力の加減が伝わりづらく、やや使いにくいです」と評価。全体的な作りでも粗が目立っていて、この順位に。ただし、付属品の満足度は高めでした。
ゴーストが出てしまう
夜間での観測で、なぜかゴースト(光の映り込み)が出てしまい、全体的にコントラストもいまいちでした。望遠鏡としての見た目の良さと見えやすさにギャップがあります。
5位:AOMEKIE「天体望遠鏡」
AOMEKIE
天体望遠鏡
実勢価格:8318円
対物レンズ口径:70mm
対物レンズの焦点距離:400mm
接眼レンズの焦点距離:25mm/6mm
倍率:16倍/67倍
タイプ:屈折式、経緯台式
重量:約1.25kg
▼検証結果
- 見えやすさ(昼) :A−
- 見えやすさ(夜) :B
- 架台の強さ :D
- 天体導入のしやすさ:D
- 使いやすさ :B
- 付属品満足度 :A
- 総合評価 :B−
5位のAOMEKIE「天体望遠鏡」は、比較した5製品で一番安い望遠鏡としては意外と健闘した印象です。作りが安っぽく、架台も負荷がかかると壊れそうですが、見えやすさは上々。月を低倍率で観測するだけなら十分でしょう。画像が反転せず、見た目と同じ(正立像)に見えるのも初心者には親切です。
低倍率ならなんとかOK
さすがに高倍率だと粗が目立ってきますが、低倍率なら見やすい部類に入ります。天体写真家は「低倍率までと割り切って考えるならありですが、作りのチープさは否めません」とのこと。
【結論】足りない部分をどう判断するかがポイント
今回、2万円未満の5つの天体望遠鏡を、実地観測も含めいろいろとチェックしましたが、意外と健闘した、といえるかもしれません。部分ごとでは価格以上の働きをするものもありました。
しかし、ベストバイに選ばれたスコープテックの製品にしても、見えやすさは高評価ですが初心者に使いにくいところがあるなど、何かしら足りないところがあるのが、今回のテスト結果からの正直な感想です。
天体写真家によれば「グレードアップすることを見越しての“最初の一台”としてもギリギリのライン」とのこと。足りない部分を割り切るか、それとももう少し予算を出して、ワンランク上の製品を買うかは、趣味へのスタンス次第ということでしょうか。
おわりに
以上、2万円以下のの天体望遠鏡5製品のおすすめランキングでした。
はじめての望遠鏡選びのポイントは見えやすさ・天体導入のしやすさ・足まわり(架台・三脚の強度)の3つです。迷ったらサポートがしっかりしている国内メーカーを選ぶのもありでしょう。
ぜひ、お気に入りの一台を見つけて天体観測を楽しんでくださいね。