AV機器 「顧客第一主義」を捨てた他社製品の締め出しが発端

昨年、2017年12月、突然GoogleがAmazonの「Fire TV」ならびに「Echo Show」からYouTubeを引き揚げるとのプレスリリースを発表しました。

そして「Echo Show」では即時YouTubeが閲覧不可に、さらに間もなくして、「Fire TV」には2018年1月1日より視聴できなくなるとの予告表示が出るようになりました。

事の発端は2015年10月に、AmazonがマーケットプレイスからGoogleの「Chromecast」や「Apple TV」の締め出しに動いたことから始まります。

「顧客第一主義」を捨てた他社製品の締め出しが発端 イメージ

Amazon側が主張するのは、ChromecastならびにApple TVがAmazonのプライム・ビデオをフォローしていないため、そんなものをマーケットプレイスで販売するとユーザーが混乱するからであるということです。

しかし、この言い分には少し苦しいものがあります。プライム・ビデオのサポートを取りやめることを決定したのはGoogleではなく、Amazonがこれらのプラットフォームを選ばなかっただけという情報もあるからです。

一方で、AppleとGoogleのモバイルOSではプライム・ビデオは視聴できるという事実もあります。

いまやAmazonとGoogleは音楽配信、AI音声アシスタント、そしてGoogle homeとAmazon EchoというAIスピーカーなど多くの分野で競合関係にあります。

今回の件は、単純にAmazonが脅威と感じるライバル企業の商品を締め出したと見るのが自然ではないでしょうか。Amazonの有名な企業理念の一つに「顧客第一主義」というものがあります。

今回の騒動は、たとえライバル企業の製品を対象とした措置としても、ユーザーを置き去りにした部分はやや残念です。

実際に「Fire TV」のユーザーのなかには、YouTubeの視聴を目的とした人も多いはずで、また購入を検討している人にとっても、購入を思いとどまる要素になる十分な可能性があります。自らが蒔いた種とはいえ、Amazonにとっても歓迎できない事態です。

家電批評でも2018年2月号の取材でAmazonサポートに今後の対応について確認しましたが、海外では「Silk」ブラウザでYouTubeが利用可能というのも、日本ではまだ未定という返事でした。

ところが、昨年12月の下旬に「Firefox」「Silk」のいずれのブラウザを使っても、YouTubeが視聴できるようになったとの情報が入ってきました。本誌の編集作業が終了した直後だっただけにやや悔しさは残りましたが、歓迎されるべき措置です。
 
GoogleがFire TV からYouTubeアプリの引き揚げを発表したのが12月5日ですが、その後12月14日には「Chromecast」を再度取り扱う内容のプレスリリースが発表され雪解けが期待されたものの、12月22日には一転、対象ユーザーに対して、ブラウザを代用するという問題解決案に関するメールを送っており、年が明けても両者の関係はうやむやになったままです。

AV機器 Amazonの素早い対応代替えブラウザの提案

そんななか、Amazonの危機感の現れというべきか、非常に迅速だった今回の対応ですが、実際に「Firefox」「Silk」を利用してYouTubeを楽しむにあたって不自由はないのでしょうか。

そこで、実際にこれらのブラウザをインストールして使ってみました。
※これより紹介する画面は実際にはカラー映像で表示されます。

Amazonの素早い対応代替えブラウザの提案 イメージ

まず、テレビにFire TV Stickを設置したあと、起動してYouTubeのアイコンをクリックすると、事前の情報通り2つのブラウザのどちらかのインストールを推奨する画面が現れたことから、「裏ワザ」といった非公式のものではないことを確認することができました。

そこで早速、Firefoxのインストールを開始しましたが、完了までに約3分ほどを要しました。自宅のネットワーク環境にもよるが、手間といえばこの待ち時間くらいではないでしょうか。

Amazonの素早い対応代替えブラウザの提案 イメージ2

インストールが完了すると早速ブラウザを使ってインターネットを楽しむことができます。使い勝手に問題なく、サクサクブラウジングできるので、メインブラウザとしても十分活躍するでしょう。

すかさずYouTubeを起動すると、内容はアプリとなんら変わりなく、不自由は感じませんでした。

Amazonの素早い対応代替えブラウザの提案 イメージ3

もちろん動画を楽しむ間に問題が起きることもありませんでした。

次に「Silk」ですが、インストールはFirefoxと同じく約3分ほど時間がかかることに加えて、利用規約への同意を求められます。

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ブラウザのインターフェースはもちろんFirefoxとは異なりますが、YouTubeはこちらもアプリと使い勝手に差はなく、問題なく動画を楽しむことができました。

では、この2つのブラウザにはどのような違いがあるのでしょうか。まず、Silkはホームボタンに戻るためには、進んだ分の回数「戻る」ボタンを押す必要があります。

まず、Firefoxは一発でホームボタンに戻ることができます。この点でブラウジングは「Firefox」がより使いやすいと言えます。

一方で、「Silk」はPCビューに対応しているため、ほとんどのサイトのサービスをPC向け画面で楽しめるという利点があります。また、「Dailymotion」「TVer」などYouTube以外の動画コンテンツを楽しめるのも特徴です。

さらに、フラッシュ動画も再生できる点で、「Firefox」よりもコンテンツを幅広く楽しめるブラウザと言えそうです。

AV機器 YouTubeに対抗!?進むアマゾンの独自路線

今回の検証では、「Fire TV Stick」を使って、Googleがアプリを引き上げる前と変わらずYouTubeを楽しめることがはっきりした形です。

この抜け道ともいえる方法に対して、今後Googleがどのようなアクションを起こすのか注目していく必要はありますが、購入を考えている、またはすでに購入したがYouTubeが使えなくなるのではないかと戦々恐々としていたユーザーはひとまず安心しても良いでしょう。

とはいえ、AmazonがGoogleの「Chromecast」「Google Home」を再びマーケットプレイスで取り扱うかという質問には懐疑的にならざるを得ません。そう言える理由は、Amazonが行った「AmazonTube」「OpenTube」という2つの商標出願が明らかになったことにも見られます。

その名称から十分に内容が想像できますが、出願内容も、ネットワークを介した動画やオーディオの提供、また、写真や動画、テキストをユーザー間でシェアできるサービスとのことで、つまりは、YouTubeへの強力な対抗策を講じていると受け取ることができるのです。

これを裏付ける情報として、企業のドメイン取得情報を公開している「Domain Name Wire」によると、Amazonはすでに「AlexaOpenTube・com」「AmazonAlexaTube・com」「AmazonOpeーTube.com」と3つのドメインを取得しているとのことです。

以上を踏まえて、既に述べましたが、AmazonとGoogleは多くの分野で競合しているので、AmazonはGoogleのコンテンツに頼らず、自前のコンテンツを強化して独自路線を進んでいくという姿勢が見えると言えます。

さらにAmazonが強気でいられる理由は、以前はGoogleの検索エンジン経由で商品検索をかけてAmazonにたどり着くユーザーが多かったのに対して、近年はその立場が逆転。直接Amazonにアクセスして商品を検索するユーザーが増えたこともあるでしょう。

また、今はブラウザ検索だけでなく、インスタグラムなどのSNSをはじめ、ユーザーを自社サイトまで誘導するツールの種類は多岐にわたることから、必ずしもGoogleに依存する必要はないのです。

AV機器 「Echo」と「Home」争いはAIスピーカーへ

AIスピーカーでも、同様に2社でシェア争いが繰り広げられることになりそうです。日本でもにわかに注目されるようになったAIスピーカーですが、とくに「Google Home」はCMなどの露出が多く、一般家庭にも徐々に認知されつつありあす。

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一方で「Amazon Echo」のほうは欧米ではすでにAIスピーカーのトップシェアを誇っていますが、日本での認知度ではまだまだといった印象です。

両者ともに呼びかけに応じた音楽自動再生、質問に対する回答といったAIスピーカーの基本機能に加えて、 生活をより便利にする独自機能が搭載されていますが、なによりも自社コンテンツとの連携による違いが色濃く出ています。

たとえば「Google Home」では「Chromecast」との連携でYouTubeを起動、動画再生ができるといった機能を搭載しているのに対し、現在のところYouTubeアプリが使えない「Amazon Echo」もプライム・ビデオ、Fire TV、Kindleと連携される予定で、Amazonコンテンツユーザーなら十分機能の恩恵を享受できる内容になっています。

ほかにも提携先によるサービスや、AIスピーカーとしてのスキルに違いはありますが、どちらを購入するかということになると、コンテンツ連携の内容が優先とならざるを得ないでしょう。

なぜなら、プライム・ビデオを視聴しないユーザーが「Amazon Echo」を購入する理由はないし、同様に、Fire TV Stickユーザーが「Google Home」を選ぶとは考えにくいからです。

いずれも海外で先行販売されていたこともあり、すでに機能はこなれているので、購入するならこちらは穏便に、自分が活用しているサービスにあった製品を選びましょう。

AV機器 消費者が被る商品価値の損失今こそ問われる企業の在り方

このように、特に対立し、時に切磋琢磨し合ってきた2社のコンテンツが、再び歩み寄るにはすでに溝は深すぎるようにも思われます。もはやAmazonがGoogle製品の取り扱いを再開すればよいといった単純な問題ではないのです。

今まで楽しんでいたコンテンツがある日突然使えなくなる。そして、購入した機器の商品価値が下がることは、ユーザーにとっては損失以外のなにものでもありません。

競争により市場やテクノロジーが活性化することは良しとされてきたし、人々の生活を豊かにしてきた側面はありますが、そこにはまず社会貢献という企業の使命があってこそのものではないのでしょうか。

まるで旧時代のなわばり争いのような今回の事態は、いたずらにサービスやコンテンツをわかりにくくさせ、消費者を混乱させるという一つのモデルケースと見ることができます。

以上、Fire StickでYou Tubeが見られない問題について解説しました。Amazon、Googleの両者には世界をリードする企業として、一度原点に立ち返り、誰もが幸せになる商品やサービスを提供してもらいたいものです。