「プロのハンドドリップ」を 再現するマシンなのです
2017年に無印良品が「豆から挽けるコーヒーメーカー」(発売当時の価格は税込み3万2000円)を発売して以来、3万円を超える高級コーヒーメーカー市場がにわかに活気づいています。
その「豆から挽けるコーヒーメーカー」の製造元であるツインバード工業から、今度はさらに高級なコーヒーメーカーCM-D457Bが発売されました。
後述しますが、「豆から挽けるコーヒーメーカー」は、3万円という価格にしては、完成度はいまひとつ、識者の評価も賛否両論でした。果たして、ツインバード工業的には第二弾となる「CM-D457」はどう進化したか? 2ヶ月間使用した結論をレポートします。
こちらその珈琲メーカーです。本体はマットな質感の黒、ダイヤルの文字は白で統一されており、控えめながらも存在感のあるデザインです。
ツインバード工業
全自動コーヒーメーカー
CM-D457B
実勢価格:3万5800円
サイズ:幅16.0×奥行き33.5×高さ36.0cm
重量:4.1kg
抽出量:1~3杯(定格容量450ml)
全自動コーヒーメーカーとしては比較的小型です。メニューダイヤルは前面に集約されており、
電源スイッチだけが側面についています。
水タンクは本体後方にあり、取り外しはできないタイプです。
豆または粉から淹れることができ、ミルだけを使うこともできます。豆の挽き具合は粗・中・細の3段階、抽出温度は83℃・90度の2段階、カップ数は1~3杯。
ミルは低速でじっくり挽く臼式を採用しており、挽くときの摩擦熱を抑えることで、コーヒー豆の風味を保ちやすいのが特長です。
本機最大の魅力! と言っても過言ではないのは「コーヒーができるまでの過程が見える」構造であること。
こうばしい香りを楽しみつつ、ドリッパーに豆が落ち、6つの穴からシャワードリップが注がれ、豆が膨らんで湯気がたちのぼる様子を間近で眺めることができます。
本機の監修は、日本が誇るコーヒーレジェンド、東京・南千住にある「カフェ・バッハ」店主の田口 護さん。豆量・粒度・水量・湯温・蒸らし時間など、コーヒーを淹れる各工程をプロの所作で再現できるよう、設計されているそう。
自宅に居ながら“喫茶店のコーヒー”を楽しめるマシンなのです。
余談ですが、「カフェ・バッハ」といえば、弊社のテスト誌のいっちばん最初の本ともいえる「家電批評monoqlo」創刊号で、チェーン店やファミレスのアイスコーヒー30店舗の批評をお手伝いいただいたご縁があります。
いやー懐かしいです。ちなみにこちらの評価は2007年当時のものです。お間違いなく笑
無印の人気コーヒーメーカーも 同じツインバード社製です
無印良品の「豆から挽けるコーヒーメーカー」も、製造は同じツインバード工業です。
無印良品
豆から挽けるコーヒーメーカー
MJ-CM1
実勢価格:2万4,900円
サイズ:幅14.5×奥行き28.5×高さ34.5cm
重量:4.4kg
抽出量:1~3杯(定格容量520ml)
無印らしいシンプルなデザインが人気を呼び、一時は入手困難に。さっぱりとした薄味で飲みやすく、筆者宅でもしばらく愛用していたのですが、次のような難点がありました。
・ミルの音が大きく、動作時間も長く感じる(挽き終わったあとの空回りするような音が気になる)
・豆がすべてミルに入らず残ることがある(自動のはずなのに見守り&手動アシスタントが必要)
・水タンクは右、ドリッパーは左から取出す仕様(本体はスリムなのだが左右に空きスペースを要する)
ミルについてはちょっと我慢、それ以外は慣れとともに気にならなくなっていたのですが、この製品の製造を手がけるツインバード工業が新たな全自動コーヒーメーカーを発売、しかもプロの味を再現するマシンだと聞き、乗換えてみたというわけです。
できあがるのを待つ時間が 楽しいコーヒーメーカーです
購入以来、本当にほぼ毎日使っているので、写真にうつっているマシン本体やガラスサーバーに使用感があり恐縮ですが、実際に使ってみてどうか、というレポートをお届けしたいと思います。
まずは使用手順から。
①水タンクに水を入れます
本体上部にあるタンクのフタを開け、でき上がりのカップ数に応じた量の水を注ぎます。
最大容量は3カップ(450ml)。コーヒー1杯を淹れる場合は、計量器ではかる(150ml)か、専用ガラスサーバーの目盛り「1」のところまで水を入れます。
②ペーパーフィルターをドリッパーにセット
本体にペーパーフィルターが5枚ついてきますが、それを使い切ったあとは市販の「1×2」「102」または「2~4カップ用」を使います。
今回はメリタの「ペーパーフィルター ナチュラルホワイト 1×2」(100枚入り・実勢価格355円)を使用。
ご存知のかたも多いと思いますが、ここでペーパーフィルターを折ってからドリッパーにセットするのがポイントです。
まず側面を折り、次に底の部分を側面と逆方向に折ります。
フィルターを折らずにそのままセットすると、こんなふう↑に隙間ができ、ドリッパーから浮いてしまうのですが…
2箇所折ると、ドリッパーにぴったりとフィットします。
③コーヒー豆/粉を入れます
ミルのふたを開けて、コーヒー豆を入れます(粉の場合はペーパーフィルターにコーヒー粉を入れます)。
付属の計量カップには「深」(深煎り)、「中」(中煎りでコクを増すとき)、「浅」(浅煎り、中煎り、中深煎り)の3種類の目盛りがあり、豆の煎り方とカップ数に応じた量を入れます。
今回は「浅」で1カップ分(取扱説明書に記載の目安量:16g)の豆をセットしました。
④電源スイッチをオンにします
ここで本体の右側面にあるスイッチを入れます。
⑤挽き目を選択します
ダイヤルに書かれた丸い印が挽き目の大きさをあらわしており、左から「細挽き/中挽き/粗挽き」になっています。
今回は「中挽き」にセット。
⑥豆or粉、温度、カップ数を選択してスタート
操作部にあるダイヤルでメニュー(豆から/粉から/ミル/メンテナンス)、抽出温度(83℃/90℃)、カップ数(1杯/2杯/3杯)を選びます。
本体に同封されていた「GUIDE BOOK」によると、「83℃の湯温は、すべての焙煎度に向く適温」、「90℃の抽出は、しっかりとした味と苦味が立ちます」とのこと。
今回は「豆から・83℃・1杯」を選択しました。スタートボタンを押すとピピッと音が鳴ります。
⑦ミルが動作します
ミルが回転し、ガリガリと音を立てて豆を挽き始めます。ドリッパーをのぞくと、挽いた豆がフィルターに落ちていく様子が見え、挽きたての豆の香りがふんわりと漂います。
無印良品「豆から挽けるコーヒーメーカー」のほうが圧倒的に動作時間が長く、回転音も大きいのかと思っていたのですが、計測してみたところ……
ミルの動作時間:どちらも約1分30秒
ミルの回転音:無印/85~87db、本機/79~85db
回転時間はほぼ同じ、ボリュームは本機がやや小さめという結果になりました。
あらためて両者の音を聞き比べてみると、ボリュームというよりは音質に違いがあることがわかりました。
無印のほうが音が高く、後半の約50秒程度はウィーーンと空回りをしているような音が続く(もう挽き終わってるのにまだ回っているのかという感じがする)ため、うるさく聞こえやすいのかもしれません。
本機は空回りをするような感じはなく、最初から最後まで低音で豆を挽く音が続くため、ストレスを感じにくいようです。
⑧お湯が注がれます
ミルの動作が終わると、今度は6つの穴からお湯がシャワー状に出てきます。お湯がフィルターに注がれては止まり、を3回ほど繰り返し、じんわりと豆にお湯が行き渡っていきます。
ドリッパーからはほのかに湯気がたちのぼり、コーヒーの香りはますます濃厚に。少しずつポタポタと、ガラスサーバーにコーヒーが落ちていきます。
⑨できあがりです
ピピッと音が鳴り、完成です!
タンクには150mlの水を入れましたが、抽出されたのは約130mlでした。取扱説明書にも「コーヒーの粉が吸水するため、コーヒーの抽出量はガラスサーバーの目盛りよりが少なくなります」という記載がありました。
スタートボタンを押してから完成までの所要時間は、約5分40秒。同じ豆と設定で、2杯で約6分40秒、3杯で約7分50秒かかります。
完成までのスピードは決して早くはありませんが、待ちくたびれるというほどでもなく、「できあがるまでの香りを楽しみつつ、ほかの用事をする(するといつの間にかできている)」というのが毎朝の習慣となっています。
⑩保温時間は20分です
完成を知らせる“ピピッ”の音とともに、保温ランプが点灯します。保温時間は20分間。終了時にも“ピピッ”と鳴って知らせてくれます。
⑪電源スイッチをオフにします
保温のオンオフは自動ですが、本体の電源は自動でオフにはなりません。保温時間が終わったら電源を切りましょう。
……と言いつつ、筆者宅ではしょっちゅう忘れてしまい、だいぶ経ってから切ることが多いです。コーヒーを淹れるためのメニューダイヤルは前面についているのですが、電源スイッチだけが側面にあり、正面から見えないのです。視界に入らないので意識しにくいのではないかと、己の忘れっぽさを棚に上げて分析しています。
電源スイッチの場所が離れていることと、自動でオフにならないこと。これがちょっと惜しいポイントです。
⑫最後に、コーヒー粉や水滴を拭き取ります
のぞきこまなくては見えない位置にあるので、これまたついつい忘れがちになるのですが、ミルのシャッター部には挽いたあとの粉と、水滴がついています。
これが1杯淹れたあとの様子。
しばらく忘れていると、こんなことに。ひゃー。
粉がついたままにしておくと、コーヒーメーカーの周りが粉だらけになったり、ふとしたはずみで、できたてのコーヒーが入ったカップの中に粉が入ってしまったり(涙)。
そんな悲劇が起こらないよう、コーヒーを淹れ終わったらその都度、ペーパータオルなどで粉を拭き取りましょう。
淹れ終わった直後なら湯気による水滴もついているので、粉がパラパラと飛び散ることなく、ササッと拭き取れます。
また、黒い家電すべてに言えることなのですが、ホコリが目立ちやすいのが玉にキズ。粉や水滴を拭き取ったあと、ついでに濡れ布巾などで本体全体をサッとひと拭きすると、マットブラックがいっそうカッコよく見えます。
毎日の手順はここまでです。
さて肝心のお味は? 専門家の評価は◎でした
月刊誌『家電批評』にて長年コーヒーメーカーのテストにご協力をいただいている、カフェズ・キッチン学園長の富田佐奈栄さんと、コムスペース代表の中川恵介さんに、このマシンで淹れたコーヒー(ブレンド豆)を試飲していただきました。
お二人の感想は……
「しっかり苦味を感じますが、後味がスッキリとするブレンドらしい味わいです」(富田佐奈栄さん)
「全体的に美味しく感じます。香りもしっかり立っていますね」(中川恵介さん)
できあがりは飲み頃とされる65℃前後。それをぬるいと感じるかどうかで好みが分かれそう、と懸念を示しつつも「冷めてもコーヒー本来のブレンドの味わいが生きている」(富田さん)と高評価でした。
筆者もできたてを飲んでみたいと思います。
1カップを注ぐとこんな感じです。
<味・香り>
まさに喫茶店のマスターが淹れてくれたコーヒーのような、濃厚な味わい。ドリップ中に漂っていた良い香りがそのまま、カップの中からたちのぼってきます。美味しい~!
しかし、我が家の場合は常に“お店っぽさ”を求めているかというとそうでもないので、
・休日のゆったりとした時間にお店の味を楽しみたいときは、取扱説明書どおりの量で濃い目に。
・平日の朝にさっぱりと多めに飲みたいときは、水量を足して(または水量そのままで豆を少なめにして)やや薄めに。
といった感じで、そのとき飲みたい仕上がりに合わせて水や豆の量を調節しています。
<温度>
前述のとおり、できあがりの温度は65℃前後。できたてを冷まさずにすぐ飲むことができる温度です。アツアツ派には物足りないかもしれませんが、筆者には適温に感じます。
<量>
あたたかいまま飲み切るにはちょうどよい量なのかもしれませんが、ちょっと少なめ。最大の3カップを淹れても大人2人で飲むとあっという間になくなってしまうので、個人的にはもっとたくさん作れたらいいのになぁと思っています。
「ミル機能だけ」を 使うこともできます
メニューダイヤルは左から「豆から/粉から/ミル/メンテナンス」となっており、ガラスサーバーとドリッパーをセットして「ミル」(ギザギザのマーク)を選択すると、豆だけを挽くことができます。
スタートボタンを押したあと、豆の量にかかわらず5分で自動停止しますが、それまではミルが動作し続けるので、挽き終わったところで自分でボタンを押して止めます。
普段は全自動の便利さにどっぷりと浸かっていても、たまにはハンドドリップしたくなることもありますよね。そんなコーヒー好きの気まぐれにも応えてくれる懐の深さも、このマシンの魅力のひとつです。
メンテナンスのしやすさは? (ミル編)
毎日のように使っていると、気になってくるのがメンテナンスですよね。まずはミルに日々溜まっていく粉の掃除から。左右にある着脱ボタンを押しながら引き抜くと、ミルが外れます。
付属の「お手入れブラシ」で本体のミル固定部をこすると、コーヒーの粉がパラパラと。下に皿を置いてキャッチします(皿は付属品ではありません)。
続いて、ミルの表面についた粉をブラシでしゃっしゃっ。
ミルカバーを回して、内部の粉も落とします。ミルの刃は金属加工の街・燕三条地域のステンレス製で、この形状は独自設計なのだそうです。
本体のミル固定部とミルあわせて、これだけの粉が取れました。
ミルを外して掃除をするなんて大変そう……とつい腰が重くなっていましたが、いざやってみるとミルを本体から外すのもミルを開けるのも簡単で、あっけないほどスンナリと終了。
皿だけではキャッチしきれなかったコーヒーの粉を掃除したり、コーヒー豆特有のあぶらっぽさで手がヌルヌルしたりしますが、メカの内部をのぞくワクワク感と粉が取れるスッキリ感があり、意外になかなか楽しい作業です。
メンテナンスのしやすさは? (水タンク編)
見た目よし味よしで、概ねとても気に入っているこのマシンですが、電源の位置以上に残念に思っているポイントがひとつ。それが「水タンク」です。
この写真は、本体を上から見たところ。写真右側にある四角いものが水タンクのフタなのですが、細長い機体の奥のほうについているので、中の様子を覗きにくい。さらに、取り外せないので、自らの手で洗うことができないのです。
ではどうやって水タンクを掃除するのかというと、「クエン酸洗浄」です。
これが洗浄前のタンクの様子。底に、うっすらとした斑点のようなものがついています。中央にある突起の網目も黒ずんでいました……。
3カップ分の水が入った水タンクに、小さじ1杯(約5g)のクエン酸を入れ、箸などでよく混ぜます。
ちなみにカネヨ石鹸の「クエン酸くん」(500g・648円)を使用しています。
メンテナンスダイヤルを「CLEAN」に合わせ、スタートボタンを押すと、水タンクの湯沸かしが始まります。
取扱説明書によれば「汚れがひどいときは、電源スイッチをオフにし、このまま約12時間放置してください」とのこと。そのとおり、12時間放置してみました。
12時間後、メンテナンスダイヤルを「DRAIN」に合わせて、ガラスサーバーの中にクエン酸の入った水を排水しました。
水と一緒に、細かな茶色い粒が出てきました。コーヒーの粉らしきものと、アカのようにも見えるものが混ざり合っています。取扱説明書にはこの排水作業を「水道水だけで3~4回繰り返します」とあり、水道水で4回やってみました。
水タンクのフタを外して中をのぞくと、ピカピカ!
底についていた斑点がなくなり、中央にある突起の網目の黒ずみも消え、きれいなシルバーになりました。
しかし、とれた水アカなのか、黒っぽい粒状のかけらが3つほど残っているのが見え、これらを流すべく、もう少し排水をしてみることに。
今度は常温の水道水ではなく、ダイヤルを「CLEAN」に合わせてタンクの水を湯沸かしして、それを排水してみました。すると……
水道水だけで4回目に排水したとき以上に茶色の粒が出てきました。ほとんどコーヒーの粉のようで、お湯の色も茶色がかっています。その後、水を換えて湯沸かし→排水を2回繰り返し、やっと茶色の粒が出なくなり、お湯の色も透明になりました。
結局、水道水で4回、お湯で3回の排水を行ったことになります。タンクがきれいになったのは良かったのですが、手入れを怠っていると、汚れをすべて外に出すのになかなかの手間がかかることがわかりました。これからはもっとこまめにクエン酸洗浄したいと思います……。
【まとめ】価格は高いですが 迷っている方は「買い」です!
ツインバード工業の全自動コーヒーメーカーの使い勝手をレポートしてきましたが、いかがだったでしょうか。
今回、長期使用してわかった良い点と、残念に思っている点をまとめると、次のようになります。
◎良い点
・お店で飲むコーヒーのような濃厚な味わいと香り。美味しい!
・ただ単にコーヒーができるだけでなく “コーヒができるまでの過程”も楽しめる。
・挽き方は3段階、温度は2段階、ミルだけ使うこともでき、選べる楽しさもある。
・マットブラックで統一された外観がカッコよく、メニューダイヤルもシンプルにまとまっている。
・ミルの取り外しが簡単。内部の掃除ができ、スッキリ。
◎残念な点
・淹れられるコーヒーの量が少なめ。
・電源スイッチだけが側面にあり、切り忘れやすい。
・水タンクの取り外しができない。
・クエン酸洗浄後の排水がちょっと大変。
洗えるものはなんでも洗ってカラッと乾かしたい性分の筆者にとっては、水タンクが外れないことが最大の残念ポイントですが、それ以外は概ね◎。今や日々の暮らしに欠かせぬ相棒です。
3万7800円と思い切りが必要な買い物ではありますが、自宅で、自動で、喫茶店のようなコーヒーを楽しめる。それだけで十分に価値のあるコーヒーメーカーだと思います。
コーヒーメーカーを探している方、本機を購入検討中の方。おすすめですよ~!